炎立つ 統括

 

今更!?とかいう御尤もな意見はご遠慮ください、なぜなら私が一番思ってることだからw

千穐楽迎えたときからずーっと書き溜めていて、でもあまりに記しておきたいことが多すぎて記事を挙げられなくて。でも、昨日発売のacteur内の連載「ステージ・ダイアリー!」が炎立つに関するインタビューでして。あきらめちゃいかんと思った次第。

 

この舞台を通して、健くんが感じたこと、得たものは最新のステージ・ダイアリーほか各媒体を読むのが最善だと思うのでここではあえて書き出すこともないが。わたしが嬉しかったのは、大御所と呼ばれる方々とお芝居をしたことで、そちらのファンの方々に健くんを見てもらえたこと。観るたびに、変わっていって、役がしみこんで、進化していく姿を見せてもらって、改めて舞台の醍醐味をだいすきなひとに教えてもらえたこと。かなぁ。もっといろいろあるはず。

 

 

シーンごとの覚書。

 

ただのセリフ書き起こしです。全部頭の中で記憶したことなので言い回しや順番など正確さは保証できません。自己満です。台詞と動きと表情とを一緒に覚えていたかったので。覚えているけれどここではイエヒラのシーンしか書いてません(もしかして著作権とかまずいかしら…なんかあったら非公開にします)。

 

 

 

 

冒頭、下手の袖、ミュージシャンの三人の後ろから一歩一歩出て来るイエヒラ。横顔と、まっすぐな背筋と、正面を向いたときの胸から肩の開き具合には、普段の愛らしいかわいいほっとけない(タイムリー)三宅健の要素は全くなくて。既に死んでいった者達の一人としてキヨヒラを囲んでいる。キヨヒラが「本当にこれで良かったのか?」と問うてる間、イエヒラはどこか遠くの上の方を見ていて、「時の裂け目が〜」でゆっくり見回しはじめる。凛としていて、すべて受け入れたような目で。

 

「なんと!」(領地を与える沙汰を聞いて。実は不公平な内容だった)

「恐れながら、陸奥の要は南の三郡。おまけに税が倍増されては、身包み剥がされたも同然。罪は問わぬと仰せならば…!」

「…いえ。朝廷の寛大なるご沙汰、承知いたしました。」

 

義家が朝廷の沙汰を伝えた後が、意外と少ないキヨヒラとイエヒラのシーン。シーンが変わる時の鈴のような音が鳴って、勢い良く振り返って言う台詞。

「こんな裁きがあるか!領地が北では力は持てん。まして税が倍増されては、誰が俺に従う。…兄上。上手く飼い犬を変えたな。二十年間敵の下僕として生き延びたかと思えば、ついに義家の犬となったか!」

「一度も兵を率いたことのない兄上に、国のまとめが出来るわけがない」

「こんな木偶の棒にかすめ取られたとあっては、黙っているわけにはいきません」(出羽の土地について)

このあたりの台詞の言い方は微妙に公演ごとに違ったなぁ。とにかく勝ち気な目で、兄を鼻で笑っている、ような日もあったし、それが抑えられて目の力がぐっと強くなったこともあって。

 

(お前はどうしてそんなに戦がしたいのです)

「恥辱を受ければ戦で返すのは当然のこと。」

「我らとはなんのことです?出羽か。陸奥か。源氏こそ、我ら蝦夷の敵」

「奪われたものを取り返す!」

「その力を結集すれば、帝の軍など敵ではない!」

血脈に固執してプライドは高いイエヒラを象徴する台詞。このあたりの台詞が舞台に響くのがだいすきだった。(その割に台詞の記憶がよくないのはなぜ)

 

「母上は陸奥の一族を再び起こそうとしているのですね。しかし、それは無駄です。そこにいるのはただ安穏と暮らすことだけが楽しみの、木偶の坊だ」

(忘れてはなりません、お前にも私の血が流れているということを)

「ええ、忘れませんよ。そのおかげで源氏の言いなりですからね。20年前、母上の一族は、源氏に滅ぼされたではありませんか」

 

 (二人とも私がおなかを痛めて産んだ、我が子。)

「…母上、知りませんでした。母上は兄上が第一で、私の行く末などどうでもよいものと」

(ここで生きるのです。ここにはわたしがいます。お前たちの身に何かがあれば、いつでも命を捨てるわたしがいます。)

母の言葉に、目を丸くして、米運びに向かう。ここですでにわかるが、イエヒラにとっての母はすごく大きい存在だった。自分を見てほしかった、認められたかった。

「そんな言葉が聞けるとは。…わかりました、おとなしくしていましょう。朝廷にくれてやる米を集めます」

この台詞の前半は、キヨヒラの顔を見て言ってるということに、岩手に来て気づいた(遅い)。

 

 

 

 

 自分の運命を知りたいイエヒラと、カサラとアラハバキの場面。軛を解かれるまではアラハバキの姿は見えないので、今回の舞台のひとつの重要な見せ方「見えないもの(実際に舞台にないもの)を見えるように表現する」ことを感じることができた気がする。

 

「予言の女よ、俺の行く末を見ろ。」

(イエヒラ殿。それを知ってどうするのです?)

「ただ、知りたいんだ」

(運命(さだめ)を知れば受け入れなければなりません。それを受け入れる覚悟は、ありますか)

「何を覚悟すればいい?俺は既に陸奥守から恥辱を受けた。これ以上の仕打ちはない!…それより、俺がこの先得るものがあるなら、それが何かを、知りたい。俺もキヨヒラと同じ母から生まれた子だ。行く末が見えるはず」

 (それなら、我らの神霊アラハバキに問うて下さい。イエヒラ殿の、血にかけて。) 

カサラの台詞(アラハバキに関すること)の間、イエヒラは辺りを見回して気配を伺っているように見えて。小刀を手首に当てがって、左手の拳を掲げて放つ台詞。

 

「我ら蝦夷の荒ぶる神よ!この血にかけて問う。どうかこの俺のゆく末を示してくれ!

キヨヒラは蝦夷を継ぐ者との予言を受けた。ならば俺は何を得る。イエヒラのこの血こそ、蝦夷を継ぐのに相応しい。なのになぜキヨヒラが国を継ぐ。俺こそが一族の棟梁だ!

答えてくれ!アラハバキ!この俺のゆく末を示せ!」

 

舞台のどまんなか、一番手前で高らかに発するこの台詞は、わたしがこの舞台で一番すきな台詞だった。台詞を遮る音も演出も何もない。ただイエヒラの声が舞台いっぱいに響くとき。

イエヒラのこの血こそ〜のところで、自分の手首から流れる血を見てるんだけど、自分に酔った顔してて。一族の血に囚われたままの憐れな子、と母に言われるが、イエヒラにとっては…誇りで。信じられるもので。原動力だった。母に認められようとすることへの。

 

キヨヒラより遥かに多くの兵を手に入れて、戦の終わりには跪いて涙するキヨヒラを見るとの予言を受けて、

「なに?本当か!」

「兵を手に入れるということは、戦に勝つということだ。それならば、日の本を継ぐのは俺じゃないか!」

この時の顔は、血が巡り巡ってる感じ。運命がどうした、と。結末を考えると、この自信に満ち溢れた顔は本当に哀しいんだけれど、この青い感じ、結構すきだった。イエヒラが生き生きしてる数少ない場面だからなぁ。

 

(運命は変わらん、といわれても)

「だがその前に、キヨヒラが己の運命を呪ったらどうなる?いや、その前に、戦で命を落としたら?自ずと運命は変わるはず。時には運命も狂うことがあるだろう。だったらそれを俺が正してやる!」

アラハバキが特別に運命を試みることを許そう、といったときの、そうだ、やってやるという顔。

 

(ただし、人間が運命を試みることは許されん。お前の魂は、預からせてもらおう!)

「どういうことだ…」

(…血は蛇のように冷たく、お前を生んだ母さえも忘れるだろう)

「…母を?」

膝をついてうなだれた、ように見えても次の瞬間には

「構わない!イエヒラを地獄に突き落とし(全然違うかも自信ない)、陸奥守に目にものみせてやれるなら!」

(カサラよ!運命に抗おうとする者が現れた!これは時の裂け目である!私の軛を解け!)ここで、アラハバキとイエヒラが相対する。

「偉大なる蝦夷の神霊アラハバキ。お前は獣と化した俺の内に潜む魔物だ。キヨヒラは必ず運命を呪い、このイエヒラが、全てを奪ってみせよう」

上手袖に消えていくんだけど、その前に立ち止まって正面をみるんだよね。取り憑かれた目をして。

 

 

アラハバキに魂を預けてしまってから、母のもとへ行くシーン。

「母上、お迎えに上がりました。一緒に出羽へ行きましょう。ここはあまりに寂しすぎる。」

「出羽で一族と合流し、陸奥守に報いを与えてやるんです」

(お前はどうしてそんなに戦がしたいのです、)

「一族を継ぐのに誰の血が相応しいか、戦ではっきりさせるしかないからです」

~ですよ、になってた日もあったなぁ。ここの雰囲気もその日によってだいぶ違って。

「母上、出羽で一緒に暮らしましょう。陸奥守の命令などではなく、今度は本当の母と子の暮らし」

やっぱり母を慕う…母に認めてもらいたい思いは持ち続けていて。

(キヨヒラを襲うことは許しません、お前を産んだことが恥ずかしい)

「わかりました。しかしキヨヒラが吠え面をかいたあとは、俺を見直してもらいます」

って言うけど、本当はいくらか哀しかったんじゃないか。自信ありげな台詞だけれど、精一杯の(とまではいかなくても)強がり。

「ゆっくり話している暇はない」

「さあ、急げ母上。」

どんどん重さと恐ろしさが増していった台詞。特に手を伸ばしながら言う三番目の台詞はぞくぞく。

 「逃げられませんよ、館の者は皆殺し。外は兵が包囲している」

(なんと冷たい手。)

 「冷たいのは母上のほうです」

 

 

 

キヨヒラの館を攻める場面。

「キヨヒラを探せ!必ずどこかに潜んでいる。女と見ても衣を剥いで確かめろ!四半刻待って見つからなければ…キリを連れて来い!首を落とし、身ごもった腹を切り裂く!キヨヒラから妻と子を奪い去ってやる。そうすれば、必ず奴を炙り出せる」

 この台詞を言ったあとに、刀を掲げて叫ぶんだけど、毎回毎回どきどきした…三宅さんの声質がはっきり出やすいから、ともすれば雰囲気がアレ?ってなっちゃう(?)、そしてあんまり喉に良さそうな叫び方ではないし…という意味でどきどきしつつ。でもひとつの決め所。この一連の台詞は上手の上段から出てきて放つ訳だけど、刀を振り回ながらで、カチャカチャっという金具の音がかっこよくてよく覚えてる。

 

 

キリとユウが自害してから、

「なぜ自害した…母上までもが何故死んだ……キヨヒラのためにか?…母上!俺にはわからない!何故逃げ隠れするものの為にみな進んで命を捨てる?…何故だ…」

って呟いたあと、刀を掲げて去って行く。ここでも、「母に認められたい子ども」がにじみ出てて。

 

 

 

山の柵。

酒に溺れて、笑い転げたりふらふらしたり。そのうちに母の亡霊が出て来て。

「母上!殺された恨みか…俺を恨んで出てきたか!」

(イエヒラを産んでいつしか復讐の念がすこしずつ薄れていったこと、いつか兄と手を取ってくれるんじゃないかと思っていたことを話す。) 

母が手をのばすと、イエヒラもそれに触れようと少しずつ二人の距離が近づく。しかし頭を抱えて「消えろ、母上!」

二人は向かい合って母はイエヒラの顔に手を伸ばすけれど、それを受け入れることが出来ず顔を背けることしかできない。 

 

兵たちに向かって、

「お前は俺を知っているか」

(もちろんですイエヒラさま、あなたは一族の棟梁)

「そうか、存分に腹を満たせ!」

「お前は?俺のために何ができる」

(この身につけたもの髪一本まであなたのもの)

「そうか酒を取れ!」

「おい、お前は俺に命を預けるか」

いつ何時も死ぬ覚悟で仕えております

「それこそが望みだ!お前は…」

 ここでアラハバキが出て来る。

(お前は怠惰を貪る獣!) 

「俺の何を怠惰と言う!」

(お前は日没までの戦を夜明けまで伸ばす者。わたしが与えた三万の兵は、お前のために飢えている!棟梁なら三万の兵を導け。もう酒も食い物もない。あとは黙って死ぬのを待つだけか?ならば兵たちにそう言え!…ここで黙って死ねとな!)

つかみかかって、

「話が違うぞアラハバキ!」

「俺は血にかけて問うたはず。魂も預けた!」

つかみかかっても倒され、頭を抱えて転げて苦しむ。

 

 

 

まもなく山の柵が落ちてイエヒラにその時が迫る場面。

 「戦の終わりにはひざまずいて涙するキヨヒラを見るものだと思っていたが…昨夜はとうとう人の死肉を食った!これほど腹が減っているのに、吐き出した!…もう、覚悟はできた。願いを聞いてくれ、アラハバキ。生きたままキヨヒラの前に連れ出さないでくれ。棟梁として引き出されるのだけは耐えられない。一人の雑兵として死にたい。」

 (その願いは、叶わぬ!)

「なぜだ…!」

最後の力で刀を振って身を守る。そのうちに気づいたこと、わからなくなったこと。

「俺は…なぜ、戦ってるんだ。怖いからか…?俺は今ものすごく怖い!怖いから戦うのか…?俺は、なぜ、生まれた?俺は、なぜ、生きた…?俺は…何だったんだ…」

掠れた声で、体を震わせて絞り出したこの言葉を最後に、イエヒラは命を落とす。

 

横たわるイエヒラを見て、やせたなぁ。とキヨヒラ。弟を抱いて、(お前の死は、無駄にはしない)と誓う。

(将たる者が雑兵の鎧をまとうと憐れな最期だ。技量のないものが、国を愚かさよ。キヨヒラ殿、これで名実ともに陸奥国の主だ。

…首を落とせ。朝廷に送る。)

 

罪はこの世で許される、からはじまるキリ(宮さん)の歌唱で、命を落とした者たちも再び舞台の上へ。

母ユウと、イエヒラの対面。ユウが手を伸ばし、目を開けるイエヒラ。目には涙のあとがあって、母とあえて微笑むときにそれが光ってた。勝気に戦への道を選んで母に認めめられようとしていたイエヒラも、やっと力を抜いて笑える。まっすぐ母の顔が見られる。戦に負け、望んでいたものも手に入れられず、命も落とすことになったが、安心した顔で、母と一緒に立ち上がり歩き出す。そんな息子をなでてやるユウの手が優しくて、あたたかくて。そちらの楽土では、母を愛をまっすぐ受けてほしい。そんなことを思った。ここが、毎回苦しさと愛しさでいっぱいになった、一番大切ですきなシーンだった。

 

 

 

 

この舞台のこと、特に大千穐楽は何年経っても忘れないと思う。台詞や挨拶の細々とした部分が記憶の中であいまいになっていっても、彼の佇まいや見つめていたもの、伝わってきた感覚的なことは絶対に。

 

これを書いて、やっと一区切りできる気がします(といってもすぐ懐古する)。

健くんお疲れ様でした。ありがとう。